5月に、ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所へ見学に行ってきました。
ウイスキーとビールには製法の共通点があり、酒税法を学んだ者として興味深かったので記事にまとめました。
ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所は、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏が、北海道・余市蒸溜所に次いで、第二の蒸溜所として宮城県に建設したウイスキー工場です。
霧深く緑豊かな、美しい自然に囲まれた工場でした。
目次
ポットスチル(単式蒸留器)
余市と宮城峡では、ポットスチル(単式蒸留器)の方式が違います。
ポットスチルとはコレのことです。
余市のポットスチルは、石炭を使った直火で加熱する方式です。
熟練の職人の手によりコントロールされた直火を使うことで、力強く重厚なモルトウイスキーができると言われています。
一方、宮城峡のポットスチルは、蒸気を使って間接加熱する方式です。
蒸気を使うことで安定した温度制御ができるため、軽快で華やかなモルトウイスキーができると言われています。
それぞれの蒸溜所で作られたシングル(1つの蒸溜所で製造された)モルトウイスキー「余市」「宮城峡」をブレンドしたブレンデッドウイスキーが、「竹鶴」になります。
ちなみに、千葉県柏市にあるニッカウヰスキー柏工場内にブレンダー室があり、そこでブレンダーが日々研究を行っているそうです。
日本の酒類は酒税法で定義されている
酒税法では、個々の酒類の担税力(高級酒には高い酒税を課税し、安いお酒の酒税は引き下げる)に応じた適切な酒税課税を行うため、酒類の製法や性状に着目して酒類を分類・定義しています。
つまり、日本の酒類は、酒税法で定義されています。
モルトウイスキーの製法
日本の酒税法において、ウイスキーは、「発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のもの)」と定義されています。
モルトウイスキーの製法は下記の手順になります。
- 二条大麦を発芽・乾燥させて「麦芽」を作る
- 麦芽を粉砕し水と混ぜると、麦芽に含まれる酵素の働きで、でんぷんが糖分に変わり、「麦汁」ができる
- 麦汁に酵母を加えると、酵母の働きにより麦汁中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解され、「もろみ」ができる
- もろみをポットスチルで2回蒸溜すると、アルコール度数の高い無色透明なウイスキー原液「ニューポット」ができる
- ニューポットを樽に詰めて熟成させると、琥珀色のシングルモルトウイスキーになる
工場にあった製法手順の展示(下記)が、すごくわかりやすいです。
ビールの製法
日本の酒税法において、ビールは、「麦芽・ホップ及び水を原料として発酵させたもの(麦芽の使用割合100%)」及び「麦芽・ホップ・水及び特定の副原料を使用して発酵させたもので、麦芽の使用割合が50%以上のもの」と定義されています。
副原料を使用しない、オール・モルトビール(麦芽100%ビール)の製法は下記の手順になります。
- 二条大麦を発芽・乾燥させて「麦芽」を作る
- 麦芽を粉砕し水と混ぜると、麦芽に含まれる酵素の働きで、でんぷんが糖分に変わり、「麦汁」ができる
- 「麦汁」にホップを加えて煮沸すると、ビール特有の苦味と香りがついた「熱麦汁」ができる
- 熱麦汁に酵母を加えると、酵母の働きにより麦汁中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解され、「若ビール」ができる
- 「若ビール」を濾過すると、透き通った琥珀色のビールになる
ウイスキーとビールの製法の違い
ウイスキーとビールの製法を比べると、ウイスキーの「もろみ」と、ビールの「若ビール」の違いは、ホップが入っているか入っていないか、だけだとわかります。
ホップを入れる前に蒸留すればウイスキー、ホップを入れて濾過すればビールになる、というのは面白いですね。
製造器具も、ほぼ同じ形をしていました。
宮城峡蒸溜所のマッシュ・タン(糖化タンク)です。
以前見学した、サッポロビール千葉工場の、ビールのマッシュ・タン(糖化タンク)です。
(余談)サッポロビール千葉工場の工場見学終了
余談ですが、サッポロビール千葉工場の工場見学は、残念ながら、2023年末で終了となってしまいました。
見学後に、先代しらせ5002を見ながら飲む黒ラベルは最高でした。
ウイスキーの「もろみ」は何酒になるのか
ウイスキーの「もろみ」を濾過して販売したとすると、酒税法上は何酒になるのでしょうか。
「もろみ」は、発芽させた穀類(麦芽)及び水を原料として糖化させて発酵させたアルコール含有物です。
酒税法上、「麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有し、アルコール度数が20度未満のもの」は発泡酒とされ、発泡酒の税率で課税されます。
なお、蒸留せず、発酵のみでアルコールを生成する場合、アルコール度数の上限限界は20度程度といわれていますので、加糖して発酵ブーストしない限り、「もろみ」のアルコール度数が20度以上になることは無いと考えています。
まぁ、「もろみ」を飲むより、素直にビールを飲んだほうが美味しいと思います(笑)
テイスティングも勿論ありました
工場見学には、テイスティングもあります。今回は、
- 宮城峡(シングルモルトウイスキー)
- スーパーニッカ(モルトウイスキーとグレーンウイスキーのブレンデッド)
- アップルワイン
を試飲させていただきました。
宮城峡、おいしうございました。
カフェ式連続式蒸留器
宮城峡蒸溜所には、古い古い「カフェ式連続式蒸留機」があります。
1960年代に導入されたカフェ式連続式蒸留機は、原料由来の豊かな香味をもつ、なめらかな口当たりのウイスキーを生み出します。
本当は、これを見たかったのです。建物の外側は見ることができましたが、残念ながら装置・内部は非公開でした。
展示された写真があったので、それを撮影しました。
ポットスチル(単式蒸留器)とは違う、メカメカした蒸留器で、丸いメーターや配管もスチームパンク風でカッコいいです。
実物を見たかった!
工場見学、おすすめです
日本酒の酒蔵・ビール工場・ウイスキー工場・ワイン工場など、日本には優れたお酒の製造場が沢山あります。
水が大切なので、たいていは山間にあって交通の便が悪かったりしますが、普段目にできない装置・製法を見ることができ、最後にテイスティングもできます。
お酒の製造に込められた情熱と、その背後にある物語を知ることで、普段飲む一杯がさらに特別なものになります。日常を忘れて、お酒の魔法に触れる旅に出てみると、楽しいですよ。