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個人事業主イラストレーターのインボイス対応の判断のポイント

税務の視点
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この記事の趣旨

この記事は、個人事業主のイラストレーター(以下、個人イラストレーターと書きます)のかたが、インボイス登録事業者になるかどうかの判断材料とするために作成しました。

わかりやすさ優先で、用語や特例規定について説明を省略している部分があります。正確さよりも、判断材料としてお使い頂くための資料となっていますので、詳細は税理士にご相談ください。当サイト内に掲載している情報の正確性については慎重を期しておりますが、その正確性・信頼性等を保証するものではありません。

1. 免税事業者でも消費税は取っていい

消費税は、

  1. 国内において
  2. 事業として行っている(個人売買ではない)
  3. 対価を受け取っている
  4. 資産の譲渡、貸付、役務(サービス)の提供

の4要件を満たす取引について課税されます。

つまり、個人イラストレーターが、事業として日本国内でイラストを書いて対価を頂いているのであれば、インボイス登録事業者であるなしに関わらず、消費税は受け取って良いのです。

2. 免税事業者=消費税を取っても、納税義務が無い者

消費税を受け取る事と、納税する義務は別です。

小規模事業者(売上が1,000万円/年以下等の要件あり)の場合、消費税を計算・申告する負担が重いという事で、消費税を納める義務が免除されています。

つまり、小規模事業者は、

  • 消費税を受け取っても良い
  • 受け取った消費税を納めなくて良い

事になります。

ただし、インボイス制度では、この「納めないけれど受け取る消費税」が問題となります。

3. 消費税の計算の仕組み(原則課税)

ここで、インボイスを必要とする側、つまりイラストを提供する相手(ここでは出版社とします)の話をします。

消費税の計算には、原則(原則課税)と簡易(簡易課税)があります。売上高が5,000万円/年を超える会社は、原則課税しか選べません。つまり、出版社の売上高が5,000万円/年を超えていれば、原則課税です。

消費税の原則課税では、

  1. 売上時に受け取った消費税(受取消費税)
  2. 経費を払った際に支払った消費税(支払消費税)

の、受取消費税から支払消費税を差し引いた残りを、国に納税します。

ただし、個人イラストレーターがインボイス(領収書)を出版社に渡さない場合、出版社が個人イラストレーターに支払った消費税(支払消費税)は、受取消費税から差し引くことができません

例)出版社が個人イラストレーターからイラストを仕入れてそのまま販売すると仮定した場合の、出版社の消費税計算

個人イラストレーターがインボイス登録事業者の場合

イラスト売上  200,000円 受取消費税20,000円(合計220,000円)
イラスト外注費 100,000円 支払消費税10,000円(合計 110,000円)

出版社の消費税納税額
受取消費税 20,000円 − 支払消費税10,000円 = 10,000円

個人イラストレーターがインボイス登録事業者ではない場合

イラスト売上  200,000円 受取消費税20,000円(合計220,000円)
イラスト外注費 100,000円 支払消費税10,000円(合計 110,000円)

出版社の消費税納税額
受取消費税 20,000円 − 支払消費税 0円 = 20,000円 ※消費税納税額が増える

整理すると、インボイスの問題は、個人イラストレーターが

  1. 消費税を原則課税で計算している出版社からオーダーを受けて
  2. 事業としてイラストを書いて
  3. 対価を受け取る

場合に発生します。

4. インボイスが無い時、出版社はどうするのか

個人イラストレーターがインボイス登録事業者ではない場合、上記の例でいうと、出版社が支払い個人イラストレーターが受け取った10,000円の消費税はどこに行くのでしょうか。

イラストレーターがインボイス登録事業者ではない場合、出版社は、消費税込みの総額110,000円を経費に計上します。収入から費用を差し引いた利益に対して、法人税率(実効税率約23%)を掛けたものが、法人税の納税額になります。

つまり、イラストレーターに支払った支払消費税10,000円を、消費税では差し引く事ができませんが、法人税の計算上差し引くことになります。

出版社の消費税計算例

イラスト売上  200,000円 受取消費税20,000円(合計220,000円)
イラスト外注費 100,000円 支払消費税10,000円(合計 110,000円)

出版社の消費税納税額(支払消費税は控除できない
受取消費税 20,000円 − 支払消費税 0円 = 20,000円

出版社の法人税計算例

出版社の法人税納税額(支払消費税込みで経費に計上する
(売上 200,000円 – 外注費 110,000円)✕ 約23%(法人税実効税率)= 20,700円

上の例の数式を分解すると、次のように組み替えることができます。

売上 200,000円 ✕ 23% − 外注費 100,000円 ✕ 23% − 支払消費税10,000円 ✕ 23% = 20,700円

整理すると、個人イラストレーターがインボイス登録事業者ではない場合、出版社が支払った消費税10,000円のうち23%分だけ、法人税が安くなる事になります。

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5. 消費税と法人税

個人イラストレーターがインボイス登録事業者であれば、出版社が支払った消費税の100%、消費税が安くなります。

個人イラストレーターがインボイス登録事業者ではない場合、出版社が支払った消費税の約23%分だけ、法人税が安くなります。

出版社としては、個人イラストレーターがインボイス登録事業者なほうが有り難いのは、このためです。

6. インボイス登録事業者になるかどうかの判断基準

個人イラストレーターがインボイス登録事業者になるかどうかの判断には、いくつかポイントがあります。例を挙げておきます。

  1. 取引先が、消費税を原則課税で計算しているかどうか
    出版社の売上高が5,000万円/年を超えているかどうかも判断基準の一つです。
  2. 取引先が、インボイスが欲しいかどうか
    クリエイター保護の観点から、インボイス不要という会社もあるようです。
  3. 自宅住所公開対策ができるかどうか
    個人イラストレーターがインボイス登録事業者になると、そのままでは、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで、自宅住所が公開される事になります。自宅住所を公開したくない場合、ポスト貸し等で住所を借りて、その住所を事業の本拠地として公開する手があります。

    私の登録番号は T4810191639072 です。国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで表示される住所は、事務所の住所になっています。どのような情報が公開されるのか、一度検索してみると良いと思います。

    国税庁 適格請求書発行事業者公表サイト
    https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/
  4. 消費税納税の負担をどう考えるか
    インボイス登録事業者になるという事は、消費税を納税する義務が発生するという事です。今まで納税していなかった消費税を納税すると、同じ売上高でも、手元で自由になるお金が減ることになります。
  5. 収入が減る分、売上拡大もしくは値上げが可能か
    インボイス登録事業者となった場合、消費税分収入が減るため、同じ収入を維持するためには、売上を伸ばす、もしくは値上げする等の対応が必要となります。
  6. 消費税の申告書作成の手数料
    インボイス登録事業者になり、消費税の納税義務者となると、所得税の申告書に加え、消費税の申告書も必要となります。それだけ手間増え、税理士報酬金額にも影響してきます。

7. 個人イラストレーターの消費税計算

個人イラストレーターの売上高が5,000万円/年以下であれば、消費税を簡易な方法(簡易課税)で計算することができます。

個人イラストレーターは技術職で、材料仕入が少ない(と思われる)ため、一般的に簡易課税を選ぶほうが、消費税の納税額が少なくなる事が多いです。個人イラストレーターが簡易課税を選択する場合、売上高の50%を仕入れとみなして消費税を計算する事になります。

個人イラストレーターの消費税計算例

イラスト売上  100,000円 受取消費税10,000円(合計110,000円)
画材等材料費   10,000円 支払消費税 1,000円(合計 11,000円)

原則課税で計算した消費税納税額
受取消費税 10,000円 − 支払消費税 1,000円 = 9,000円

簡易課税で計算した消費税納税額
受取消費税 10,000円 – (みなし支払消費税 10,000円✕50%) = 5,000円

過去の申告情報を見て、画材等材料費が売上のどのくらいを占めているかによって、原則課税と簡易課税のどちらか有利なほうを選択する事になります。

※ 簡易課税を選択するには、事前の届出が必要です。また、一度選択したら一定期間原則課税に戻ることができません。

8. インボイスを発行しない場合の請求書・領収書

個人イラストレーターがインボイスの登録事業者にならない場合、上記のように、出版社は、消費税込みの全額を経費に計上することになります。

このため、インボイスの登録事業者にならない(消費税を納めない)個人イラストレーターが、消費税を取る場合、請求書・領収書は、

110,000円
※金額は税込みの金額となります

のように税込表記にすると、出版社側もわかりやすいでしょう。

9. インボイスを発行する場合の請求書・領収書

個人イラストレーターがインボイスの登録事業者になる場合、いままで使用していた請求書・領収書を、インボイス対応にする必要があります。

ざっくり言うと、いままで作成していた請求書・領収書に、インボイス登録番号を追記したものが、インボイス対応の請求書・領収書になります。税込み金額で記載しているのであれば税抜にして、消費税を別記載にしておくと良いでしょう。

10. インボイスの特例

インボイス制度の導入にあたり、いくつか特例が(期限付きで)設けられました。そのうち、個人イラストレーターに影響が大きい特例をピックアップしました。

個人イラストレーター側の特例

  • みなし仕入率80%(〜2026/9)
    免税事業者がインボイス登録事業者になり、消費税を納税する事になった場合、簡易課税と同じ計算方法で、売上高の80%を仕入高として消費税を計算できる特例があります。小規模事業者の消費税負担を低減するのが目的です。
個人イラストレーターの消費税特例計算例

イラスト売上  100,000円 受取消費税10,000円(合計110,000円)
画材等材料費   10,000円 支払消費税 1,000円(合計 11,000円)

特例で計算した消費税納税額
受取消費税 10,000円 – (みなし支払消費税 10,000円✕80%) = 2,000円

出版社側の特例

  • 仕入税額控除の特例(〜2029/10)
    インボイスが無くても、支払った消費税のうち一定の金額を支払消費税として計算できる特例があります。企業がインボイスが無い事を理由に契約を継続しない、もしくは、値下げを要求するといった問題に対応するのが目的です。
  • 1万円未満の取引の特例(〜2029/9)
    税込1万円未満の取引については、インボイスがなくても支払消費税として計算できる特例があります。企業が、少額取引しか無い零細事業主と契約しなくなる問題を考えた救済措置です。
Planどこを改善すれば良いかが見える
Doどう手を打てば良いかが見える
Check打った手の成果が見える
Actionさらに改善策が打てる

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