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インボイス後の免税事業者の領収書の記載内容

税務の視点
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本記事の課題

インボイス制度施行後、免税事業者が発行する領収書には、消費税をどう書けばいいでしょうか。

わかりやすさ優先で、用語や特例規定について説明を省略している部分があります。正確さよりも、判断材料としてお使い頂くための資料となっていますので、詳細は国税庁・税務署・税理士等にご相談ください。当サイト内に掲載している情報の正確性については慎重を期しておりますが、その正確性・信頼性等を保証するものではありません。

ネット上の情報も混乱しているようですので、消費税法・国税庁の通達をもとに、ここで整理しておきます。なお、あくまでも法律・通達等がどうなっているのか、という解説になります。

税理士にも、ちゃんと法律を読むトレーニングを積んでいる人と積んでいない人がいますので、ネット上の情報を鵜呑みにせず、裏取りをすることが大事です。

なお、この記事は、仕入側ではなく、売上側の立場書いています。フリーランスやイラストレーターなど、自分のスキルで稼いでいるかたを想定しており、消費税8%・10%商品が多数混在する小売業等は想定していません。

免税事業者は消費税を取ることができるのか?

まず、免税事業者は消費税を取ることができるのか、という論点です。

結論として、法律上は取ることができる、と判断できます。

理由は、消費税法を読めばわかります。

課税の対象となる取引

消費税法 第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

第四条が、消費税を徴収するケースを規定しています。わかりやすく書くと、

  1. 国内取引であること
  2. 事業者が行っていること
  3. 対価を得て行われていること
  4. 資産の譲渡等であること

の4つの要件を満たす場合、消費税が課税される(消費税を徴収する必要がある)と規定されています。

つまり、第四条は、消費税が課税される「取引」に対する法律だとわかります。第四条には、消費税を納める「人(自然人・法人)」は定義されていません。

また、「課する」であり、「課すことができる」ではないため、上記4要件を満たす取引を行った場合、事業者が課税事業者であろうが免税事業者であろうが、必ず消費税が課税されることがわかります。

納税義務者

消費税法 第五条 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある

第五条では、4要件を満たす取引(消費税の課税取引)を行った事業者には、消費税を納税する義務が発生することが書かれています。

つまり、第五条は、誰が消費税を納めるのか、という「人(自然人・法人)」に対する法律だとわかります。第五条は、第四条に規定する「取引」には影響を与えません。

小規模事業者に係る納税義務の免除

消費税法 第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

第九条は、第五条の例外として、納税義務が免除される人(自然人・法人)を規定しています。第四条の例外ではなく、第五条の例外であるところがポイントです。

第九条もやはり、「人(自然人・法人)」に対する法律であり、第四条に規定する「取引」には影響を与えません。

また、「納めることができない」のではなく「免除する」規定となっているため、課税売上高1,000万円以下の事業者が消費税の納税義務者となるかどうかは、選択制であることが読み取れます。

免税事業者とは

ここまで見てきた消費税法の条文から、第五条と第九条の組み合わせで、免税事業者が規定されていることがわかります。

納税義務者(第五条)に該当するが、条件付きで消費税の納税義務を免除(第九条)された人が、免税事業者であるという法律の建付けです。

結論

消費税法上、第四条と第九条は併存しているため、4要件を満たす課税取引(消費税法第四条)を行った場合は、消費税を取らなければならないが、消費税を取った人(自然人・法人)が消費税法第九条に該当する場合には、取った消費税を納めないことができます。

それが良いことなのかどうなのかは、法律とは別のお話。

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免税事業者が消費税を取った場合の領収書の記載内容

それでは本題に入っていきましょう。

免税事業者が消費税を取った場合、インボイスを発行することができません。その場合、発行する領収書には、どのように消費税を記載すれば良いでしょうか。

免税事業者の領収書は、税込金額一択

免税事業者が消費税を取った場合の領収書の記載内容については、国税庁のパンフレットから、国としての考え方が読み取れます。ちなみに、総務省の文書にもほぼ同じ文章が記載されているため、財務省・総務省の共通認識とみて間違いないでしょう。

国税庁 消費税のあらまし(令和5年6月)

19 総額表示の義務付けは?
(注1)免税事業者は、取引に課される税がないことから、そもそも「税抜価格」を表示して別途消費税相当額を受領することは、消費税の仕組み上予定されていません

免税事業者には、そもそも「税抜価格」という考え方が無い事がわかります。

従って、免税事業者が領収書を発行する場合、領収書に書く金額は「税込金額」一択となります。

免税事業者は、区分記載請求書等保存方式を引き継ぐと思われる

その他の記載事項には何があるでしょうか。

免税事業者には、適格請求書(インボイス)の書式が適用されません。

逆に、消費税法第五十七条の五・第六十五条に規定されている通り、免税事業者がインボイスを発行したり、インボイスと誤認する書き方の領収書を発行すると犯罪となります。

免税事業者が、インボイス制度で定められた書式から適格請求書発行事業者番号を消して使用する事は、適格請求書と誤認される恐れがあると考えられます。

消費税法 第六十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
四 第五十七条の五の規定に違反して同条第一号若しくは第二号に掲げる書類を交付し、又は同条第三号に掲げる電磁的記録を提供した者

消費税法 第五十七条の五 適格請求書発行事業者以外の者は第一号に掲げる書類及び第三号に掲げる電磁的記録(第一号に掲げる書類の記載事項に係るものに限る。)を、適格請求書発行事業者は第二号に掲げる書類及び第三号に掲げる電磁的記録(第二号に掲げる書類の記載事項に係るものに限る。)を、それぞれ他の者に対して交付し、又は提供してはならない
一 適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類
二 偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書
三 第一号に掲げる書類の記載事項又は前号に掲げる書類の記載事項に係る電磁的記録

この法律の規定があるため、免税事業者が消費税を取った場合の領収書の書式は、インボイス制度前の規定である「区分記載請求書等保存方式」を引き継ぐと考えるのが妥当と考えられます。

国税庁 区分記載請求書等保存方式

「区分記載請求書等保存方式」の領収書には、

  • 軽減税率(8%)の対象品目 or 標準税率(10%)の対象品目である旨
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)

の記載が必要です。

結論

免税事業者が消費税を取った場合の領収書は、「区分記載請求書等保存方式」の規定に基づいて作成し、金額は税込金額で記載するのが妥当と考えられます。

法律の本体(本法)では、免税事業者が消費税を取った場合の領収書の取り扱いが想定されていないため、周辺法および財務省・総務省・国税庁の文書等を元に判断する事になります。

あくまでも判断であり、絶対的に正しいと言い切れるものではありませんが、法律を読んでいくと、こういう結論になるのではないか、というのが、現時点での私の判断です。

Planどこを改善すれば良いかが見える
Doどう手を打てば良いかが見える
Check打った手の成果が見える
Actionさらに改善策が打てる

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